「 源流回想録 ~裏~ 」 2009年9月16日~9月19日


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                                     一般的なローカルバスの運転席


 ガンガーの源流を求めて、ヒマラヤの麓のガンゴートリーという聖地へ行こうと思った。

 そのまだ先に本当の源流とも言えるゴームク(牛の口)という氷河から流れるガンガーがあるのだが、出来ればそこまでも行ってみたいのだ。

 そしてそこで沐浴すれば清らかな心と体になれるかもだ。



 早めに出発しようとしたんだが昼前だった。

 とりあえず今日は175km先のウッタルカシという町まで行ければオッケーだからと余裕ぶっこいてたな。

 ウッタルカシ行きのバスに乗れはしたが1時間バスの中で待たされた。

 いったいいつ出発するのかさっぱり分からんし、誰がドライバーでどいつが車掌なのかも見分けがつかん。

 おまけに俺には風邪の初期症状が出てて、鼻が詰まり喉が荒れて息がしづらいのだ。

 そして車内は暑く汗ばむ。

 この汗が乾いて寒くなったら悪化すんだろうなぁ、風邪。

 ていうか、こんな体調不良で標高3048mのガンゴートリーなんか行っちゃって平気なんだろうか。

 こういっちゃなんだが俺は人一倍高山病になりやすい体質なのだ。

 それはもう1500mくらいから激しい運動すると息が上がり、2000mくらいから歩いてるだけでフラフラしだすのだ。

 富士山の8合目でひどい頭痛にさい悩まされたのは20代中盤くらいだったと思う。
 

 でもまあ、バスは進むよどこまでも。

 山という山をいくつもいくつも越えていく。

 それはなんかすごく無駄なルートな気がすんのは俺だけか?

 今、高い所を走っていても、隣の山の下の方に道路が見えると、ぐるっと山腹を尾根沿いに谷に向かって迂回して下り、その道路に行くのだ。

 そんでまたその山を登ってく。

 それを繰り返して山をひとつずつクリアしながら進む。

 もっとこうなんか1本道でがーんっと行けないのかね。

 超めんどくさいよ。


 畑に田んぼに、段々畑、棚田と人の手の加わった山ばかり、もうかなり奥地に来てると思うんだけどな。

 すげえとこまで人が住んでるんだな。

 でも、こんだけ絶景なら人も住みたくなるわいな。

 その気持ちは分かる。

 ウッタルカシまでの道は快適だった。

 それこそネパール並みの左手崖斜面、右手谷底の山道で、パキスタンはカラコルム・ハイウェイ張りにそこかしこで土砂崩れの痕跡がありはするけども、道幅がちゃんと車2台分あって擦れ違いも容易だし、雨さえ降らなければたいした事ぁないよ。

 景色も綺麗だし、5時間ほど走ったらガンガーが湖みたいな大きさになってこんな上流でも母なる大河の役割を果たしてる。

 さっすがガンガーだな。


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               早朝でもインド人の朝は早い


 次の日は朝からバスでガンゴートーリーを目指す。

 高山病予防の為に水とカロリー補給のバナナを買い込んで朝食がてら栄養補給だ。

 このちょい手前から違う国道に変わったんだけど、これを国道と呼ぶには千年早ぇ。

 舗装されてなかったり、擦れ違いが際どかったり、滝河が道路をふさいでたりと、とてもバスが通る道とは思えん。

 でもトラックとかミリタリーポリスの軍用車とかも通るからすごい。

 チベットとの国境がもうすぐそこなんで軍事目的に造られたのか?

 通り過ぎる山間の村々では警察官よりも軍人のが増えてきたし。

 あと本当に歩いて聖地を目指してるサドゥも何人かいるよ。

 リシュケシュからだけでもゴームクまで290kmもあんのに。


 それにしてもヒマラヤが近づいてきた証拠に景観が変わって来た。

 岩山高山ばかりになり、切り立つ崖が山頂から谷底のガンガーまで垂直に近いほど競り建ってる。

 その昔、インド大陸がヒマラヤの海岸に衝突した際の衝撃がそのまま山に成り変ってる。

 地層を歪め地殻をヘシ曲げた岩盤が盛り上がり砕け飛び散る荒々しい最中、そして気の遠くなるようなスローモーションでそれは今後も地球が存続する限り続いてく。

 そんな風景が広がるが、莫大な時間の流れの感覚がいまいち実感できない俺にはのどかで風光明媚な世界にしか映らない。

 でも、それでいいのだよ。

 ヒマラヤ山系の白く輝く頂が現れた時、その驚愕の世界に何者も住まうべきではないとさえ感じた。

 神々でさえ住んじゃならん。

 仮りにそこに住まうことが出来る者が居るとしたら、それは天上人のチベタンだけだろうな。

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               大地の天界の頂が見えてきた


 標高が上がるにしたがって空気が乾き、鼻水までもが乾燥した。

 鼻詰まりがなくなったのだよ。

 でも砂埃と排気ガスが巻き上がるから、炎症気味の喉と鼻に直に大ダメージをくらう。

 そんで酸素も減ってきたのかあくび止まらん。

 寝ると呼吸が浅くなり高山病を誘発するので寝るのは禁物だ。

 ・・・・だが、いつの間にか眠ってた。

 
 ヒマラヤ杉の森が岩山を覆い、バスは高度を一気に上げる。

 息が荒いのか喉の乾燥も進み水をがぶ飲みだ。

 来たな、そろそろ高山病か!?

 と言っても何も対処する事が出来ないまま、両手の指先が痺れてきた。

 酸素が末端まで届いてねぇぞ。

 そうこうしてるうちにガンゴートリーに到着だ。

 だが、頭痛は激しく動悸は活発でめまいクラクラ超しんどい。


 一刻も早くベッドに潜り込むか、下山したい。

 だが来たばっかで下山はねえだろと、体が高度に慣れるまでの我慢だ、とおとなしくしてることにした。


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                完全なる雪解け水が流れるガンジス河の上流


 開放感のある部屋は病床と化したが、それを気にしてる余裕は俺には全くなかった。

 なにか喰わなければマズイと無理やり起き出し飯を喰いに出かける。

 腹が膨れるとだいぶ落ち着いたが、とはいえ頭ん中はいまだガンガンだ。
 
 こうなりゃ神頼みしかないと聖なるガンガーへ行き、俺の体を浄化してください、と足を浸けてみる。


 イタッ!! イタタタターーーー!!


 なんだここ!!

 水が冷た過ぎて痛ぇ!

 足がもげたかと思った。

 3秒も入れなかったぞ・・・・



 ここが駄目ならと、ガンゴートリー寺院へ参拝だ。

 裸足になり寺院へ入るが今度は大理石が氷のように冷え切っててゆっくり参拝も出来ん。

 ひとつところに留まってられないのだよ。

 ま、まぁ、とりあえずガンゴートリーでのメインイベントはなんとかこなしたんで、即効帰ってまたベッドに潜り込んだ。



 頭の中の鈍痛と、喉の渇きと風邪の掠れ、ちょっと動くとめまいに襲われ、おまけに水下痢祭りも始まり、この体から抜け出そうともがき苦しむ悪夢を何度も見た。

 昼間っから寝てるもんだから夕方も夜もぐっすりなんか寝てらんない。

 2時間眠り、目を覚ますとすぐに頭痛に襲われ喉が渇く。

 それをもう延々繰り返す。

 こんなに長くてキツイ夜はそう何度も経験する事ではないぞ。

 まさかこんなに長い時間頭痛が止まらないとは思いもしなかった。

 そりゃもうロマンチックより止まんないよ。

 少し寝てればすぐに回復すると思ってたのになぁ。



 朝、意識の遠くで頭痛を感じるだけになってたのがまだ救いだった。

 それでも歩くとめまいがして酔っ払いなごとき千鳥足。

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                空も近い ヒマラヤの懐は空気も冷たく純粋

 本日もガンゴートリー寺院へ再度参拝しに行った。


 聖なる河・ガンガーは相変わらずの冷たさ痛さで、沐浴なんてさすがのインド人も気合いの入った奴しかやってない。

 もしかしてあの全身沐浴してる奴んとこの水は実は少しぬるいんじゃないかと思ってそっちに行って足浴してみた。



 イタッ!! イタタタターーーー!!



 変わんねーつーの!! 

 宗教に陶酔する力の根源を見た気がした。


 この先、ガンガーの一滴があるゴームクまではトレッキングで進む。

 18kmを1日か、2日かけて。

 ここからさらに高さ850m程登った標高3892mの氷河の出口がゴームク、牛の口と言われるガンガーの源流だ。


 ここがそんな有名なトレッキングルートだなんて知らなかったし、そんなとこサドゥしか行かないんだと思ってた。

 しかもサドゥは裸足かサンダル履きだろうから、すごく近くて3、4時間も山登れば着くんじゃねえかって思ってたんだよ。
 
 確かにここにいるサドゥの大半は裸足だしサンダル履きだった。

 でも西洋人のトレッカーとか、インド人のツーリストとか、巡礼者とかみんなちゃんと靴ですよ。

 そして思うに昨日今日とここで高山病の症状が出てるのは俺だけですよ。

 たかだか3000mだし。

 みんな笑いながらここに車やバスで着いて、次の日さっそくゴームクまでピクニック感覚で行ってるのですよ。

 でも俺には無理。

 高山病・喉風邪・水下痢の三大祭り開催中。

 おまけに俺サンダル。

 気軽に行けなそうだな。


 朝飯喰ったレストランの壁にゴームクの氷河のポスターが貼ってあったから、そいつをデジカメに収めてヴァーチャル参拝。

 もう敗北宣言だぜ。

 一応、ここでガンガー・ウォーターは汲んだしな。

 もうとにかく帰る。

 下山したい。

 ここにあと2、3日滞在してしばらく順応させればゴームクまで行けるだろうがもういいや。

 どんなに良いサイコロの目が出ようが牛歩カードくらってるからスローだもん。

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          この景色はまたのお預け ガンガーの一滴はこの氷河から噴射!!


 そんな体調悪いときに限って物事はにっちさっちも行かずに帰りのバス探しに4時間も費やし、そのバスで2時間待ちという苦行を強いられる。

 ツライから山下りたいだけなんだけど俺は・・・・

 しかもそのバスはものすごい詰め込みようで、バスなのにエコノミー症候群になりそうな窮屈さ。

 健康体でも辛い状況を三重苦でどーもすいません。


 俺の体は正直だ。

 バスは進み標高が下がる。

 それは30分も走った頃だったか、急に頭の中の頭痛とぼんやりとした違和感が消え、はっきりと物事を認識することが出来た。

 昨日よりマシになって体も高度に適応してきたかと思ってたが、こうまで意識がはっきりするとは思わなかったよ。

 酸素って大事なんだね。

 当たり前にあるから全然意識してないで生活してるけど、これからは酸素にも感謝しなきゃいかんな。



 さらに標高下がると今度は鼻水が復活だ。

 カラッカラだった鼻と喉の通り道に粘膜が戻ってきたぞ。

 これで砂埃をガードする事が容易だぜ。

 しかし蓄膿症っぽく涙目も戻り軽い頭痛も戻ってきた。

 なんか3日前の風邪の初期症状よりちょっぴり進化してねえか? でも気にするな。

 俺にはまだこのバスの周りに存在する絶大なる景色を眺めることができるんだから!


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                家畜の避け待ちがある 山中の国道

 翌朝、ウッタルカシからのリシュケシュ行きのバスはもう快適だったよ。

 高山病も無い。

 下痢も地元薬で強制ストップ。

 何故か喉風邪が咳きに変わっていたが喉のイガイガは消えている。

 そしてバス車内は空いてて国道も舗装されてて揺れも少ない。

 こうなると気持ちに余裕あるし、外の情景も穏やかで楽しい。

 ガンジス河が下流にいくに従って大きくなっていく。

 上流に向かってるときはそれほど気にしてなかったが、今ガンガーと共に海に向かって走っているとそれを実感する。

 しかもそれはただ1本の水の流れが続いていくのではなく、あらゆる所から支流が重なり、大きな流れから小さな流れまで入れれば数千本単位の支流が、続々とガンガーの流れに吸い寄せられるように重なっていき合流する。

 そうしてガンガーは成長を続け次第に大きくなっていくのだ、元気玉のように。

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               湖のようなガンジス河 でもまだ山深い土地


 ガンガーとはひとつ河の固有名詞ではなく、たくさんの生命力が集まった総称なのではないだろうか。


 源流。

 最初の一滴。


 正直いうとめっちゃ見たかった。

 シヴァがガンガーの水を髪の毛で受け止めて地上に流す、という神話を俺もやってみたかったんだよ。

 ゴームクから流れる水を頭からかぶるというシヴァの物真似を。

 それにはまだまだ修行が足りなかったようだぜ。

 シヴァはやっぱり遠いな。

 もっと体と心を鍛えて健康にならなければならん。

 そして靴もちゃんと用意しなきゃならん。

 あと出来れば酸素スプレーも欲しいよね!

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               シヴァが河の水流を受け止める神話壁画


 バスに乗ってる間ずっと思ってたのは、もう二度とここには来ないって事だ。

 辛い・長い・キツい・だったから。

 でもちょっぴり悔しいからいつかまた来よう、って今は思ってる。



                                           From Naokys!

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       おい、お前はこれを読むべきだ  「ぶらっと、旅る。」?インド旅ブログ?おもしろそ!




 ※2009年5月20日から2009年10月22日までの五カ月間にわたった抱腹絶倒な大天竺一周の旅、あの名作【 インド道 】シリーズがリメイクされ、ナオキーズ!旅ブログ 『 ぶらっと、旅る。 』にて蘇る。



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