「 悩み過ぎないでがんばるよん 」
朝の5時半、まだ暗い街中に随所にあるモスクからアザーンが流れるのが聞こえる。
アザーンとは、イスラム教のお祈りの時間になると「今からお祈り始めますよ~」的なセリフをそれこそ随所にあるモスクからマイクを通しそれぞれが唄うように流す生ライブ。 この朝の眠りを妨げ響き渡る音量に辟易することもあったが、何年振りかに聴いたアザーンは俺にはとても心地良いものだった。
あぁ、懐かしい。 これ聴くとイスラム国家に来た実感が沸くんだよなぁ。。。
それからたいして眠れず午前中にはこの街・ラバトを離れるもんで早々と朝の街歩きでもしようと飛び起きた。
日曜日の朝だからかどこも開いてない
ラバトのメディナには世界遺産登録された建物などがいくつかあるので時間の許す限り観て周ろうと張り切った。 閉まりまくってるスークの町を北に上り抜けると城壁が見えてくる。 坂の上まで行くと眼下には大西洋が広がって、斜面にはイスラム墓地も広がる景色。
Tシャツでちょうど良い気候は吹き抜ける海風が全身を包み込み散歩し甲斐のある朝。 始まりかけの秋の朝のような程よい暑さが一日中続くこの季節のモロッコに来れて良かった。
この国は言わずもがな乾燥しきってるのでどんなに歩いてもどんなに晴れてても汗なんかかかない。 ついでに言うと洗濯物も即効で乾く。 皮膚から汗が出る間もなくどんどん蒸発していくのだ。 最高気温が27~28℃でも湿気なんて言葉はこの国の辞書にはないし、ググっても出てこないだろう。
気持ち良すぎるほど快適な気候に移住したくなった
ウダイヤ博物館やウダイヤ庭園、ウダイヤのカスバなどが見所だがこの時間はまだ外から外観を眺めることしか出来なかった。 が、それもまた良し。 18世紀の当時を偲びながらゆっくりと城壁沿いに坂を下って行った。
博物館の入り口からして世界遺産
当時、この時期この時間帯に敵が攻めて来てもスルーしそうなゆるい朝
ラバトは川を挟んで対岸にサレというもう一つ、双子のような街がある。 そのサレの街を横目に見ながらメディナを抜けてしばらく歩くと、とても大きな未完成のミナレット(モスクの尖塔)・ハッサンの塔というこれまた世界遺産な物件があり、まだ観光客がいないその敷地を独り占めだ。 ここにはちゃんと門番がいて朝からお勤めご苦労さんだ。
この人達の勤務時間が気になる 馬の上にも三年
こういう時間を独占できるのが身勝手な一人旅のイイところ
という事で、朝の散歩を終えた俺は10時のバスの時間も迫り、いよいよここからが本番だ。
さーて、モロッコの北東の山あいの町・シャウエンに向けて移動するぞ。
時間ぎりぎりで長距離バスターミナルに着いた俺はさっそく昨日固い握手を交わし10時のバスに乗せてくれるという窓口へと急ぐ。 しかし、昨日の景気の良いパパンの姿がどこにも見当たらない。 まあそんなこともあるよとバスのチケットを買おうとすると、窓口の兄ちゃんが衝撃的な一言を発した。
「 10時のバス? 今日はないよ、シャウエン行くなら17時に来て。」
おい、ちょっと待て。 なんだそりゃ? 10時、12時、17時って昨日パパンが言ってたぞ。 何のために俺は今10時にココにいると思ってんだ?
昨日のパパンとの固い約束が、軽い小芝居に思えてきたぞ。 めちゃくちゃ調子良いパパンだったのか!?
・・・・しばし呆然とする。
え? どうすんの俺。 あと7時間もここにはいられないぞ? またメディナに戻ったって荷物はあるし大方見尽くした感もあるし、もうこの街お腹いっぱいよ?
こうやって思い描いていた計画が藻屑のように消え去るのはまぁ、こんな旅してればよくあることだし、あーだこーだ言っても何も変わらないのは経験上心得てるし、すぐに気持ちを切り替えて次どうするかを考えなければ先にはいつまでたっても進めないのだ。
考えろ頭、振り絞れ脳みそ!!!
とりあえず猫に癒されてみた
バスターミナル前のカフェで一服しながらルート変更の行程を考えた。 とにかく少しでも先に進みたい。 各地でバスを乗り継いでシャウエンまで行けないかしらん?
チケット売り場でシャウエンに近い街まで行くバスを探すとタンジェという港街に行くバスが11時に出るという。 迷わずチケットを買ってそいつに乗り込んだ。
タンジェはモロッコの一番北にあり、ジブラルタル海峡を挟んでスペインから船でモロッコに入国する最初の街である。 シャウエンよりも北側だが、ここラバトよりは断然に近い。 到着時刻にもよるがそのまま乗り継いで行けるかも知れないし、ダメならタンジェに1泊してもいいだろう。
バスは大西洋に沿って北上し当初6時間ほどかかると言われたが、高速道路を使いノンストップで走ったからかわずか3時間半、15時前にタンジェに着いた。 まだ先へ行けるか?と思いバスターミナルを降りてすぐに次のバスを探す。 タンジェとシャウエンのちょうど半分くらいの距離のところに「白い町」ティトゥアンという町がある。 そこへ行くバスが、今すぐ出るぞ、乗るなら早くしろ!と俺を待っていたかのようなナイスなタイミングでエンジンを吹かしていた。
こういう時、旅の神様って本当にいるなって思う。 けっこういじわるだけど頑張って先へ進もうとしてるとちょっとだけうまい具合にコトを運んでくれる。 スムーズに計画通りいくより回り道したほうが面白いだろ?ってな具合に。
てな訳で、ティトゥアンの立派なバスターミナルに到着
まだ16時半だったが、疲れたしこの町で1泊しようと決めた。 それでも明日シャウエンに向けて出発しようと思ってるからバスの時間を調べた。 朝の7時半から2時間おきにバスは出ている模様。 これならいつ来ても大丈夫だな、と安心してたら周りにいたモロッコ人は言う。
「 明日はフェスタだからバス会社は休みだよ! フェスタだからバスでないよ~! 」 と。。。
こいつら、、、昨日からバスが出るとか出ねえとか、いい加減な事ばっかり言いやがって、、、
そんなもん明日ココに戻って来てから俺が決める。 だいたい旅行前にモロッコの休日ちゃんと調べてこの時期に国民の休日なんか無いのは知ってんだぞ?
でも、なんかこいつらものすごい笑顔でうれしそうにフェスタ、フェスタって言ってんなぁ。
なるようになれ、と宿探しを開始するがなんだか違和感を覚える。 日曜日だからってそんなに?ってくらい人が多い。 しかも地元民もいるが現地の観光客っぽいのが多い。
観光客たくさんいるが外国人は見当たらない…
宿に至ってはいくつか周ってもFULLだと言う。 大した部屋でもないのにちょっと割高も目立つ。 そして・・・・ 明日はフェスタだから満室だよ、と何軒かの宿のオーナーに言われた。 マジ!?
なんとか手頃な安宿にチェックインが出来たので英語が話せるオーナーにどうなってるのか事情を尋ねた。
「 この町だけのフェスタでもモロッコの休日っていう訳でもなくって、俺たちイスラム教の祭りだよ。 明日から2、3日はフェスタだよ。 バス? 運行休止。 」
バスも休みってどんなフェスティバルが行われるんだろう。 予想外でいまだに信じられないがそんな大きなお祭りって案外ラッキーじゃん!
それで前祝いってな感じでこんなに大勢の人達で賑わってるんだな。 明日シャウエンに行けるかどうか皆目見当つかんけど、こりゃ楽しみだ、とお楽しみのメディナ散策へと繰り出した。
路上の物売りに人だかる 年末のアメ横状態で前に進めん
王宮の前の広場は閉鎖されてる ポリスと軍人の数が異常だった
ここが王宮 メディナのド真ん中
旧市街のスーク(市場) ここはキッチン用品通り
こちらは色鮮やかなフルーツ横丁
このティトゥアンという町は小さいながらも山の斜面に沿って拡がってるので坂道と階段が縦の路地になっている。 横移動の路地には果物屋なら果物屋スーク、革製品スークや陶器のスーク、衣類のスークに木工のスーク、とそれぞれ職人達のスークがひとかたまりなって延びている。 そしてこのひとだかりが活気を生み市場全体に熱気を持たせていた。
世界遺産にも登録されているこのメディナのトップの城壁まで昇ると、大きなカスバが出てきた。 カスバとはメディナには必ずあるレンガ造りの砦のことで、司令官の滞在場所だった所だ。
ここからは「白い町」の全貌が見下ろせるのだが中に入っていくと軍隊が野営の準備をしていた。 で、ここは立ち入り禁止だぞ?なにやってんだ、早く出ていけ!と追い出されてしまった。
カスバの芝生斜面は子供達の絶好の遊び場
色白い町を見下す だいぶ高い
モロッコの代表食 タジン鍋を売る陶器のスーク街
ぐるぐると適当にメディナの中を上に行ったり下に行ったりしながら散策を終え、下界の新市街へ戻ってきた。
夕飯にチキンタジン鍋をいただいたあと、数少ないwi-fiが通じる宿に戻りイスラム教のお祭り事情を調べると、なんとメッカ(イスラム教の聖地)巡礼に行ったムスリム達の無事の帰りを祝う一大イベント・犠牲祭だと言うではないか! これはイスラム歴に基づく日取りで決まる為、毎年行われる時期が違う。 今年は9月12日からなんだと。 犠牲祭では各家庭で羊をささげる。
どうりでバスターミナルとか道路を走るトラックの荷台とかに羊が大量輸送されてるなって思ったんだよ・・・・ 羊の品評会でもあんのかと思ってたら犠牲祭かぁ。。。
翌日。 犠牲祭当日。
いまだにバスの運休も半信半疑でタクシーでなら移動できるかも知れないし、とりあえず町の様子を見に行こうと朝から外に出やると、、、 まったくと言って良いほど町が稼働してなかった・・・・
宿の前の通り 昨日の人だかりはどこへ・・・・?
まるで日本の元旦のように人気は無い
誰もいない町をすたこら歩くが、さわやかな朝の静けさの中で各家庭から聞こえてくるのは羊達の、「メェ~~、メェ~~、、」という無力な断末魔だけ。 道の排水溝に伸びる大量の血痕。 そして、レストランや雑貨屋など飯を喰う場所も全然開いてない。 みんな羊喰うだろうから良いけど俺なんか朝ごはんからしてどうすればいいの?
町の一角ごとになにやら数人が木組みをセットしてBBQの用意をしている。 中にはもう焼き始めているところも。 そう、何故か羊の頭と前足2本を1セットとしてそれだけをみんなで焼いているのだ。 焼きあがっているのはともかくこれから投入される生首は新鮮で、火中にくべられても目玉は宙を見据えたままだ。
う~ん、グロい。
町は徹底的にお正月モードに変貌しており、バスどころかタクシー乗り場も無意味だった。
戒厳令でも発せられたのかと思う有り様
この「白い町」も今日だけ中身は「赤い町」
今日はもう完全に、移動どころか見るもの全てこの閉店な新市街と閑散としたメディナのスーク、街角BBQしか見れない1日になってしまった。 デカい祭りでパレードとかあるのかな?なんて期待してた俺はメシ喰う場所も見いだせず、あやうく当人が生贄に捧げられてしまうところだよ。
昼前に唯一見つけた食糧 フルーツとして売ってるサボテンの実だ 5個喰った
昨日の活気ある熱気 アレは夢だったのだろうか… みんなドコ・゚・(ノД`;)・゚・
こんなのが街角BBQのかたわらに無造作にある光景
陽も暮れて街灯の明かりが灯る頃、ようやく人々が町に姿を現した。 新市街に一件だけ食べ物を売ってるところを発見するが、ものすごい繁盛してる! なにそれ?みんな腹減ってんじゃん! こんな時に店開ければ大儲け間違いなしじゃん!?って日本人の俺は思ったけど、敬虔なイスラム教徒のこと。 犠牲祭当日に商売するなんて言語道断に違いない。 もしかしたらあのお店の経営者はムスリムじゃないのかもね。
涙が出るほど美味かったファラフェル サボテンより元気出た
そういえば宿のオーナーが2、3日フェスタは続くよって言ってたけど明日からどーなんの?俺のモロッコ放浪は。
明日は明日の風が吹く。
どーせ涼しい風だから、気楽に考えていこうかね。
Tetouan,Morocco 12/sep/2016 From Naokys!
あの忘れられた名旅ブログ ナオキーズ! 『 ぶらっと、旅る。 』 2016最新作 「モロッコを駆け抜けろ!」 2016/9/9から2016/9/25までの旅先はアフリカ北西部に位置するモロッコ王国。胸躍る最新blog配信中❗❗